AIの使い道は、機能からではなく業務の困りごとから逆算すると決めやすくなります。業務を6項目で書き出し、効果と間違えたときの影響で並べて、最初の1つを選ぶ手順を整理します。
EXECUTIVE SUMMARYこの記事の要点
AIの使い道を決めるための情報が足りない、と感じている中小企業は多い。中小機構の調査では、AI・IT導入にかかる事例の情報が十分に入手できていないと答えた中小企業が83.3%、ベンダーや製品を選ぶ情報が十分にないと答えた企業が79.8%に上る(AI・ITの導入についての設問)。使い道は、AIの機能から探すより、業務の困りごとから逆算するほうが決めやすい、とJYUは考える。業務を6項目で書き出し、効果と間違えたときの影響で並べれば、最初の1つを選びやすくなる。
- AI・IT導入にかかる事例の情報が足りないと答えた中小企業は83.3%。使い道を決める材料が整っていない
- 候補はAIの機能ではなく業務の単位で、6項目で書き出す
- 効果と間違えたときの影響で並べ、最初の1つを選び、使う前の基準値を取る
対象読者
- AI活用の推進を任された、情報システム・DX推進・経営企画の担当者
- AIの使い道を決められず、稟議や社内説明が進まない経営者・管理職
- 業務の洗い出しの進め方に悩む担当者
想定する相談テーマ
- AIを何に使えばいいか分からない
- AIを任されたが、使い道の候補と優先順位を出せない
- どの業務からAIを試せばよいか決められない
- 業務の洗い出し(棚卸し)をどう進めればよいか分からない
- AIの導入事例や、うちの会社に合う使い道の情報が足りない
「何に使えばいいか分からない」で、止まっていませんか
「AIを使いたい。ただ、何に使えばよいのかが決まらない」。AIの推進を任されても、使い道の候補と優先順位を示せず、稟議や社内の説明が進まない。この記事は、そうした状況を想定しています。
公的な調査からも、使い道を決める材料が足りない状況がうかがえます。中小機構の調査(2026年3月)で、AI・IT導入にかかる社内の情報量を尋ねたところ、「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に「あまり当てはまらない」「全く当てはまらない」と答えた中小企業は83.3%(1,635社)、「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」では79.8%(1,631社)でした。AIだけでなくITも含む設問です。帝国データバンクの2026年3月の調査でも、生成AI活用上の懸念として「生成AIを活用すべき業務の範囲」を挙げた企業が40.0%ありました(3つまでの複数回答)。
この記事では、使い道を決めるために、業務をどう洗い出し、何で並べ、どう1つに絞るかを整理します。
論点1: 実際に使われているのは、文書まわりと管理部門
まず、いま実際にどの業務で使われているかを見ます。IPAの「DX動向2026」では、AI(生成AIを含む)を導入・試験利用・検討している企業に用途を尋ねています。
- 「文書・音声の要約・翻訳・校正」82.5%
- 「文書・レポートの作成」80.5%
- 「情報検索・収集・分析・レポーティング」77.0%
- 一方、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%、「自社製品・サービスの高度化」は10.9%
IPAは、文書作成や情報収集など、個人の業務の効率化用途が中心としています。利用している部署(生成AI。生成AIを導入・試験・検討している企業が母集団)も、最も高いITシステム71.9%に、経営企画69.0%、総務・法務68.4%が続く一方で、調達31.3%、流通23.9%、製造(設計、生産管理を含む)35.7%と、現場の業務に近い部署は低くなっています。
別の調査も、効率化が中心であることを示しています。帝国データバンクの調査では、生成AIを活用している企業3,560社の主な活用業務は、「文章の作成・要約・校正」が45.1%、「情報収集」が21.8%でした。中小機構の調査では、AIを導入した中小企業331社の導入目的は「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で最多でした(複数の目的を選べる形)。
ただし、これは「どこで使われているか」の実態で、自社の答えではありません。JYUは、先行している理由の一つに、人が出力を後から確認しやすい業務であることがあると読みます。調査はこの理由を示していないので、JYUの解釈です。
論点2: 棚卸しの単位は「AIでできること」ではなく「業務」
AIの機能から候補を探すと、「要約」「検索」「文章作成」と機能の名前が並ぶだけで、どの業務に効くのかが決まりません。JYUは、業務の困りごとから逆算するほうが、候補と優先順位を示しやすいと考えます。
候補は部署名ではなく業務の単位で、次の6項目で書きます。
- 業務名と目的何のための、どの業務か「議事録作成」のように業務の単位で書く。部署名では書かない。
- いまの量工数・件数・頻度週に何回、1回に何時間かかっているか。使う前の基準値になる。
- 必要な品質どの水準なら使えるか下書きでよいのか、そのまま社外に出すのか。
- 使うデータ何を入力するか営業秘密や個人情報を含むかどうか。
- 誤りの影響間違えたら、誰に何が及ぶか社内で直せるのか、顧客や取引先に及ぶのか。
- 今の確認者いま誰が確認しているかAIを使った後も、確認する人と手順を決める出発点になる。
JYUの整理です。公的な様式ではありません。
候補には、AIを使わない手段も入れます。業務そのものをやめる、手順を標準化する、既存のITの設定で済ませるといった手段です。AIはその選択肢の1つとして並べます。
| 観点 | AIの機能から探す | 業務の困りごとから逆算する |
|---|---|---|
| 出発点 | 「AIで何ができるか」 | 「どの業務に時間がかかり、何に困っているか」 |
| 候補の形 | 「要約」「検索」など機能の名前 | 「議事録作成」など業務の単位 |
| 優先順位 | 機能の目新しさや、声の大きさで決まりやすい | 効果と、間違えたときの影響で比べられる |
| 稟議での説明 | 「便利そう」にとどまりやすい | 現状の量と確認者を示せる。効果を測る基準値にもなる |
JYUの整理です。
論点3: 並べる軸は、効果と、間違えたときの影響
洗い出した候補は、効果の見込みと、間違えたときの影響の2軸で並べます。効果が大きくても、間違えたときの影響が大きい業務は、確認の仕組みが先に必要です。
IPAの手引書(2026年7月31日)は、AIシステムの対象業務や扱う情報に基づいて、固有リスク(影響度の大きさ)を評価する考え方を示しています(第5章)。JYUは、業務を「使うデータ」と「誤りの影響」で記述しておくと、この考え方に沿って評価しやすくなると考えます。
入力する情報にも注意が要ります。IPAの「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」は、「ここから始めるAIセキュリティ対策」の1つ目に「クラウドAIに営業秘密は教えない」を挙げています。営業秘密や個人情報を使う業務は、入力のルールと確認者を先に決めてから、候補に残します。経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)の公表ページには、活用の手引き(案)、チェックリスト、ワークシートも掲載されています。自社のルールを整えるときに、あわせて確認できます。
提言: 最初の使い道を決める5つの手順
決める手順を、次のように整理します。公的な標準ではなく、JYUの整理です。
- 困りごとから、業務を洗い出す人が判断
「時間がかかる」「ミスが多い」「あの人にしか分からない」を部署ごとに聞き、業務の単位で書き出す。
- 候補を6項目で書く人が判断
業務名と目的、いまの量、必要な品質、使うデータ、誤りの影響、今の確認者を埋める。
- AIを使わない手段も候補に入れる協働
業務の廃止、標準化、既存ITの設定も並べる。AIはその選択肢の1つ。
- 効果と、間違えたときの影響で並べる人が判断
影響が大きい業務は、確認の仕組みを先に決める。営業秘密や個人情報を使う業務は入力ルールが先。
- 最初の1つを選び、基準値を取る人が判断
影響が小さく、効果が見込める1業務を選ぶ。使う前の所要時間と、確認・修正の手間を測る。
手順はJYUの整理です。選んだ後の進め方は、関連記事も参照してください。
最初の1つは、影響が小さく、効果が見込める業務から選びます。実態調査で先行している文書まわりの業務は、有力な候補になりますが、自社の6項目で並べた結果で決めます。
おわりに
「何に使えばよいか分からない」は、知識が足りないからというより、候補を比べる材料が整っていないことが多いと、JYUは考えます。業務を洗い出して6項目で書けば、効果と間違えたときの影響が並べられ、最初の1つを選べます。選んだら、使う前の基準値を取り、小さく試して測ってください。
出典と前提
数値は2026年11月3日に、各調査の公表資料で確認しました。調査ごとに対象・設問・定義が異なるため、数値同士は直接比較していません。
- 中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月、2ページの要約版): 要約版PDF。Webアンケートで、調査期間は2025年11月17日〜12月12日、対象は全国の中小企業10,000社(中小企業基本法の定義)。「AI」は画像認識、音声認識、生成AIなど、AI技術を用いたサービス。情報量の設問は「AI・IT導入にかかる社内理解や情報量」で、項目ごとの回答数は1,635社と1,631社。導入目的はAI導入企業331社の回答。
- 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(2026年5月14日公表): 調査ページ。調査期間は2026年3月17〜31日。「生成AIを活用すべき業務の範囲」の割合は、ページに母数の明記がない。
- IPA「DX動向2026」(2026年7月30日公表): 本文PDF。用途は図表3-9、利用部署は図表3-7。いずれもAIまたは生成AIの導入・試験・検討企業が母集団。
- IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」(2026年4月2日公開): 公開ページ。
- IPA「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(2026年7月31日更新): 公開ページ。
- 経済産業省「AI事業者ガイドライン」(第1.2版): 公表ページ。
「業務の棚卸しの6項目」「使い道を決める5つの手順」「効果と間違えたときの影響の2軸」は、JYUの整理であり、公的な標準ではありません。
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